常緑革命
投稿日:2008年11月19日 09:00
現在インドでは、「常緑革命」(Evergreen Revolution)と呼ばれる農業
政策が進められています。食糧自給率の達成に指導的な役割を果たしている
遺伝・育種学者のモンコブ・スワミナタン氏が「緑の革命」に代わって提唱、
推進しています。
中国では、1949年に共産党が権力を握ったことにより、地方の農民組合が
土地を取り戻すだけでなく、借金の帳消しや富の再分配も行われました。そ
の影響でアジアの振興諸国にも共産党が浸透し、平等な農村を作ろうとの農
民運動にまで発展し、政情不安が広がりました。
そのためアメリカの財団、国際開発局、世界銀行が中心となって当時の共
産主義の魅力を抑えるために米の収穫をHYV種を使って倍増させ、農民の
不満を解消する目的が緑の革命でした。
ただ、HYV種は在来種に比べて米粒の量は2倍ほど多いのですが、その
分大量の養分や水が必要になります。そのため大量の化学肥料や灌漑用水が
必要になりました。この化学肥料の原料となったのは第2次世界大戦に爆薬
に使われていた窒素でした。
爆薬を作っていた欧米の窒素工場が、戦争が終わって設備過剰となった工
場を緑の革命で大量の肥料を必要としていた途上国に向けた化学肥料工場に
切り替えました。中でもインドでの化学肥料消費量、輸入量は劇的に増えて
いきました。
インドでは緑の革命で小麦や米の生産は倍増しましたが、同時に大量の化
学肥料や農薬を必要としたために、深刻な環境汚染を招く結果になりました。
「常緑革命」は緑の革命の欠点を是正し、環境に優しい持続可能な形で生産
性の向上を実現する手法として提唱、実践されています。
生産性を高める目標は同じですが、環境に優しい土壌管理や害虫駆除の方
法を取り入れています。有機肥料を基本にしていますが、最小限の化学肥料
や農薬も使用します。
土壌から必要な栄養分が失われないよう注意を払うと共に、バイオ技術の
活用も同時に行われています。限られた農地の中で増える人口を養うために
はこうした発想が必要になります。
インドの1ヘクタール当たりの米収穫量は日本に比べると2.5%と生産
性が低いため、常緑革命で現在の倍の年間5億に引き上げる目標です。人
口が12億人から15億人に増えても飢えないですむ計画です。また、生産性の
向上は農業人口の減少を食い止めるためでもあります。
インドでは人口の6割を占める農民は、何とか食いつなぐために土地を耕
しているのが現状ですが、欧米の農業はビジネスとしての要素が強いので、
途上国と欧米の農業では、貿易体制などの公平性の観点で区別が必要になり
ます。
食料自給率の低い我が国も食料の安定需給には、持続可能な農業を目指す
日本版「常緑革命」が必要なのかもしれません。
https://www.lifestyle.co.jp/2008/11/post_279.html
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