原子力発電のコスト

ライフスタイル総合研究所



 原子力発電のコスト

投稿日:2004年09月18日 12:05

 8月9日、福井県の美浜原子力発電所で蒸気配管破裂事故があり、不幸にも死傷者が出てしまいました。放射能漏れの事故ではありませんでしたが、関西電力の定期点検漏れが指摘されていて、コストと安全対策とのあいだでのコスト優先が事故を招いた人災との見方が強まっています。原油の値上がりや電力需要の増加など原子力発電にたよる部分も多いのが現状ですが、安全面やトータルコストなどで原発が岐路に立たされています。

 国内には東京電力や関西電力などが建設・運営する原子力発電所が52機あります。ウラン燃料を燃やして電力を作っていますが、使用済みウラン燃料は、処理をしてウランとプルトニウムを取り出せば再び使用することができ、加工したものをウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料とよんでいます。再び原発で燃やすことを「核燃料サイクル」と言い、政府が推進しています。

 再処理は現在、大半を海外に委託していますが、電力各社が出資する日本原燃が青森県六ヶ所村に年間8百?の処理能力を持つ再処理工場を現在建設中です。しかし、核物質を扱う原発では再処理を含めた使用済み核燃料の後処理費用が巨額になります。電気事業連合会が発表した試算では今後約80年で総額18兆9千億円に達するようです。

 試算は2005年?87年までを対象にしています。内訳は06年7月から操業を始める再処理工場が40年間操業すると想定して、操業費が約9兆円。これに付随する費用として、同工場の閉鎖後の解体・廃棄物処理費が1兆6千億円、高レベル放射能廃棄物の処分費2兆5千億円。MOX燃料の加工費が約1兆2千億円として見積もられています。

 巨額になるのは期間が長いのと核物質を扱うため、輸送や解体工事などを慎重に進める必要があるからで、放射性物質の中には地中深くに埋めて、数百年にわたって管理しなければならないものもあります。これらの費用を単純に発電コストに上乗せすると経済情勢にもよりますが、1??時あたり約1円?1.53円になります。総合資源エネルギー調査会が99年に公表した原発の発電コスト試算は5.9円でした。この中にも一部再処理コストが含まれていましたので、コストは単純計算で最高6.4円になります。

 経済産業省は「原発は他の電源より安い」と主張してきましたが、天然ガス火力(6.4円)や石炭火力(6.5円)とほぼ同水準になり、コストの優位性はなくなりました。

 電力会社はすでに再処理工場の操業費などの準備金を積み立てていますが、日本の原発は国の方針に従って電力会社が建設・運営する国策民営が基本となっていますので、残りは国に負担してもらいたいのが本音のようです。国民に負担を求めるのであれば、大手電力会社は発電、送電など部門別に経営を分離するなどの方法でコスト削減を徹底すべきだとの指摘もでています。今後は費用を誰がどう負担するかが焦点となりそうです。

 原発は地球温暖化を招く二酸化炭素を排出しませんし、太陽光や風力発電と違い安定供給の利点もありますが、コストのメリットがなくなるのであれば、放射能事故や廃棄物処理の危険性をさけるべく、できるだけ早く、脱原発の方向性に切り替えて欲しいと思います。



https://www.lifestyle.co.jp/2004/09/post_92.html
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